「東の方から博士たちが訪れる」

マタイの福音書 2:1-12

礼拝メッセージ 2020.12.27 日曜礼拝 牧師:南野 浩則


博士たちとは?

 イエスが生まれた後に訪問者がやって来ます。訪問者たちは東方の博士あるいは賢者と呼ばれています。この博士たちに関してはいくつかの誤解があります。いわゆる占星術師なのですが、現在であれば天文学者であり、政治顧問のような仕事をしていたと考えられます。また、3名の博士たちとされることが多いようですが、聖書自体には人数は記されていません。確かなのは、複数の博士たちが来訪したことです。また、博士たちはイエスが生まれたときに、羊飼いと一緒に家畜小屋(あるいは洞窟)でイエスに出会ったとされがちですが、博士たちの訪問場所は「家」(11節)です。また、訪問時期もイエスがある程度成長してからであるとも考えられています。


ベツレヘムにユダヤの王が生まれた

 2章になってはじめてイエスが生まれた町の名前(ベツレヘム)が記されています。東方の博士たちはまだそのことを知りません。ただ、星に導かれて東の地からエルサレムまで来ました。博士たちはユダヤの王が生まれたと語っているので、その生誕は古代イスラエルの王ダビデの町エルサレムで生まれたと勘違いをしたのかも知れません。当時のユダヤの王であるヘロデはこの博士たちの言葉を聞いて、非常に恐れたと聖書は語っています。このようなメッセージは無視しても良かったはずです。ヘロデはいわゆる生粋のユダヤ人ではなく、その王としての正統性が人々から疑われていました。その強大な権力と財力は外国のローマ帝国の後押しがあったからで、ユダヤの王が生まれたとの東方の博士たちのメッセージに過剰に反応してしまいました。
 ユダヤの学者を集めて、旧約聖書のミカ書の記述からメシアの生まれる場所をベツレヘムと特定します。ベツレヘムはダビデ王が生まれたとされている場所です。次に、星が出現した時期を博士たちから確認します。そして、博士たちをベツレヘムに送り出すのです。ヘロデはここで嘘を語ります。ヘロデがメシアの誕生を知りたかったのは、メシアを礼拝するためではなく、別の目的があったからです。それは13節以下に悲劇として記されます。博士たちはメシアを特定するためのスパイのような役割を果たすように期待されたのです。


イエスとの出会い

 いずれにせよ、博士たちは再び星に導かれてベツレヘムに赴き、母マリアと共にイエスがいた家にたどり着きます。16節に、ヘロデがベツレヘムの二歳以下の男児を殺害するように命じていますので、博士の訪問時にはイエスはそのような年齢になっていたと考えられています。博士たちは黄金、没薬、乳香を贈りものとして献上しました。いずれも高価な物であり、ヨセフの一家には経済的な助けになったことは間違いありません。この後すぐに一家はエジプトに逃亡することになりますが、その生活資金になったとも言われています。
 その後、博士たちはヘロデのところに戻らないようにという神からの言葉を夢の中で聞きます。そして、ヘロデとの約束を違えて、直接に東へ帰国してしまいました。


異邦人宣教のビジョン

 小説「ベン・ハー」は、この博士たちが砂漠で待ち合わせをするシーンから始まります。博士たちが東方からやって来たとは、彼らはユダヤ人ではなかったことを意味しました。博士たちは、他の神々を礼拝していたと考えられます。つまり、聖書の神を礼拝していない、ユダヤ人から見れば異邦の民でした。そのような博士たちが、ユダヤの王である人物に会いに来たとは不思議なことです。ユダヤ人の先祖は東方からパレスチナから来たとはいえ、メシアは自分たちの民(ペルシア人)の王ではありません。実際、聖書自体は博士たちの訪問の理由について何も語りません。しかし、一つ言えることは、星に導かれてやって来たというのは、王との面会に招かれてきたということです。博士たちは選ばれてやって来ました。ユダヤ人から見れば、神から見捨てられたと考えられた人々がユダヤ人の王であるメシアの誕生の祝福に招待されたのです。
 すでにマタイ福音書冒頭のイエスの系図の中で異邦人伝道のビジョンが示されていましたが、東方の博士たちの訪問も同じ趣旨で記されています。メシアが到来したという良い知らせは、ユダヤ人だけのものではありません。メシアはユダヤ人の王ではあっても、その民族的・文化的な枠組みを超えて神の救いと祝福が宣言されていくからです。それは時間と空間を経て、私たちの時代・国にもやって来ました。そして、イエスの福音は私たちの予想や狭い見方を超えて、どんどん拡大していくでしょう。神に期待したいです。